2019年10月9日水曜日

2019年11月3日 アナログシンセサイザー

今回のテーマは『アナログシンセサイザー』です。
以前の部活で行っていたGarageBand講座用に作ったコンテンツも復習兼ねて再登場ですけれど、万人に必須な知識・情報ではありませんから雑学的にとらえてくださいね✿

すごく簡単にまとめていますが、量が多いですし特に関心を持っていない場合は全く入ってこない内容だと思います。
とりあえず、こういう世界があるんだ〜( ̄△ ̄;…程度に考えて下さい

ひとくちにシンセサイザーと言ってもその合成方式は下表の通りたくさんあります。
今回扱うのはそのうちの一つ… アナログ減算合成(サブトラクティブ)です。
 アナログ減算合成(サブトラクティブシンセシス)
 FM乗算合成
 PCMサンプリング・ウェーブテーブル
 仮想物理モデル演算
 ベクター加算合成
 波形接続型・グラニュラー合成
 正弦波合成アクティブ
※細かく分類すると更に増えますが、逆にもっと簡略化して2つに分けることもできます。アナログシンセとデジタルシンセです。

 1  今回の内容について

デジアカ授業でもかつて沢彰記さんによるシンセサイザー講座が存在しましたがSecond Life的には自作アイテム用のオリジナル効果音作りに使える…というくらいのニュアンスで捉えてください。(※沢彰記さんはデジアカアニメ授業の先生でもありましたね!)

このとおりデジアカ授業で使用されていたものはRoland Jupiter8を模したフリーのバーチャルシンセサイザーです。

音楽制作のためにシンセサイザーの実機を使用するとなるとDAWまたはMTRで多重録音するにしても経験がないと入出力レベルや同期の処理などの事前の調整が大変ですし現在ではPC上で動作するソフト音源も豊富にありますからライブで生演奏をする等の事情でない限り個人が手を出すほどの存在ではありません。

尚、今回扱うのはアナログシンセサイザーです。
一番上にまとめた表の通りシンセサイズの手法は様々あって、全部まとめるととても長いコンテンツになるので今回は(音作りが単純明快で判り易い特徴もある )アナログのみを扱います。

アナログとは言っても淘汰されてはいませんし今現在も現役としてアナログシンセサイザーが販売されています。

 2  歴史

広義として電子工学で音を作る装置…としてなら100年くらい歴史を遡ることになりますが、当初は実験や軍事通信用のものであり特に音楽利用(楽器)として誕生しているわけではありません。

このように出発点として明確にシンセサイザーの体裁を持った始祖が発明されたわけではなく、初期の頃は電子的に音を作るというテーマのもと様々なアプローチが行われ技術蓄積と概念が生まれ混じり洗練されてきたものです。

歴史の上ではアナログの方が先行しているのは確かですが、あくまで電子工学上での音作りのプロセス論の話ですし、シンセサイザーを名乗る楽器が出る以前の1950年には既にコンピューターで音楽を奏でるものや更にそれよりも前にボコーダーも登場していてそこには視点によっての様々な主張があり線引は曖昧な部分を残しています。

そのような背景がありますが、ここではロバート・モーグ博士(シンセサイザーの創始者と呼ばれています)が生み出したmoogシンセサイザーを起点として扱います。
モーグ博士はその時点で既に存在した様々な技術要素や既知の情報を基に現在のシンセサイザーの形をまとめあげた功労者でもあります。
※リンク:これは2012年5月23日Google検索サイトトップページ用に作られた(実際に演奏できる)もの


 3  モジュラータイプシンセサイザー

歴史の項で解説した通りシンセサイザーが元々は電子工学を駆使して音を生み出す装置が出発点だった為、その名残を残すものは楽器とは思えない姿をしていますが、特にこのモジュラータイプと呼ばれているものは純粋に音作り作業に特化しているため、そのビジュアルも「装置」の傾向が強いです。

シンセサイザーが浸透していなかった当時、冨田勲さんが米国から持ち帰ったmoogに対し、この得体の知れない装置を楽器とは認められない!(通すわけにはいかない)…と通関でもめたという逸話があります。

モジュラーシンセは各モジュール間をパッチコードで配線し各つまみを操作しながらイメージにある音を作っていきます。
そのため取扱において音加工の完全な理解が必要ですが、原理についてはこのページの下の方にまとめています。

 3-1  moog SYSTEM55
moog SYSTEM55
1970年代に登場した世界的に有名なモジュラー式アナログシンセサイザーです。
参考リンク:SYSTEM55を紹介している動画
 
moogはその名称からわかる通りロバート・モーグ博士が関わっている会社です。
シンセサイザーなので作れる音は豊富ですが例えばこんな音が出せます。

このモデルは多くの場合スタジオ据え置きでの使用のためメディア露出は少ないのですがYMO全盛期の映像などではライブステージの後方で松武秀樹さんが操っている姿を見ることができます。
壁のような存在感のある機材に無数のコードが渡されているのでとてもインパクトがあるのですが、そのビジュアルも演出に組入れていたのかもしれません。
ライブの殆どの曲はシーケンサー(マイクロコンポーザ)Roland MC-8を駆使してアルペジオ等を自動演奏させていた筈なので松武さんご自身が直接演奏しているわけではないと思います。

※モジュラータイプのシンセサイザーによる音作り 及び シーケンサー操作を行う人のことをマニピュレーターと言います。


 3-2  Roland SYSTEM700
Roland SYSTEM700

 3-3  KORG PS-3300
KORG PS3300
 3-2  3-3  …Roland・KORGは日本のメーカーです。
Roland SYSTEM700は主にスタジオでの使用が多かったそうですが出荷台数はそれほど多くはなかったようで中古市場でもあまり見かけません。
カタログでのSYSTEM700紹介部分
Roland製品は全般的にツマミではなくスライドボリュームを多用している印象があります✿

一方KORGのPS3300はライブ演奏も意識したモデルでポリフォニックとなっていて同時に複数の音が出せます。
キース・エマーソンがライブ使用していました✿
この当時のものとしては極めて異常とも言えますが、鍵盤48鍵全てに対して3VCO…つまり144の音源を持っていました。
※下位モデルのPS3200・PS3100も全鍵同時発音可能なポリフォニックです。

 3-4  モノフォニックとポリフォニック
意外に感じるかもしれませんが、アナログシンセサイザーはピアノやオルガン等と違って原理的にはモノフォニック(単音しか出せない)の楽器です。

複数の鍵盤をおさえたとしても1音しか出ないためコードを演奏することは不可能です。
そんなモノフォニックに楽器としての価値があるのか?ですが、例えばトランペット等を思い浮かべてください。
常に1音しか出せませんがトランペットは楽器として何ら問題なく主役ですらあります。
つまりモノフォニックシンセサイザーのライブ上での役割はそこにあると思えば良いです。

余談ですが吹奏楽で使われる楽器は殆ど全てが単音しか出ません。これはつまりモノフォニックシンセサイザーでもMTRでしつこく重ね録りすれば冨田勲さんのアルバムのように一人オーケストラもできるということです。

でも必要な時に和音が出せれば適応範囲が広がるのも確かなことなので、単音のみというモノフォニックシンセサイザーの制限を覆して同時に複数の音が出せるようにしたものも存在します。それをポリフォニックシンセサイザーと呼びます
理論上不可能な複数音同時発音をどうやって実現しているのかと言うと、発音の元となっているVCOをたくさん用意する!そういう力技です。

とは言ってもだいたいは4音〜8音同時という感じなので144VCO搭載のKORG PS3300のような全鍵盤同時発音はありえないほどにオーバースペックです。

※SYSTEM55のところに貼ってある演奏ファイルを聴くととてもモノフォニック・シンセサイザーを使っているとは思えない重厚感かつ荘厳な音を作っていますが、これはMTRを使用しての重ね録りなので制作には気の遠くなるような時間と労力の投入が必要です。
つまりライブ等の生演奏でいきなりこの音が得られるわけではありません。


 〜寄り道 1 〜  MTRとは

MTR(Multi Truck Recorder)は複数のトラックを持つレコーダーです。
再生しながら別トラックへ録音ができます。元々は写真のように1インチもしくは2インチ幅の磁気テープを使用する大変高価なものでしたが、後にカセットテープに4〜8トラック録音ができる廉価な製品も出ています。尚、現在はメモリーやハードディスクを使うものになっています。
OTARI MTR90

下の写真は私も使っていましたが個人で購入できる価格帯まで下がってきたハードディスクタイプのMTRです。この写真のモデルはバーチャルトラックを使うことで24トラック✕16の最大384トラックが扱えます。
24ビット/96kHzですからCDの16ビット/44.1kHzと比べるまでもないスペックを持っています。
現在ではPCによるDAW利用が増えたためMTR需要はかなり減っていると思います。
Roland VS2480


 〜寄り道 2 〜  シーケンサー(コンポーザー)Roland MC-8

Intel 8080A(8ビットのCPU)で動作するシーケンサー(自動演奏装置)です。
メモリ16kバイト・最大で5400音分の打ち込みを記憶し再生することができますがその出力は8系統分の音程指示の電圧(CV)とON/OFF(トリガー)信号…

つまりこれはコンピューターでありながらその出力はアナログの電圧です。
アナログ電圧という結果を出すためだけに作られた120万円のコンピューター製品

アナログ電圧を出力するコンピューター機器って違和感がありますが、実はそういう仕組みは計測/制御分野や舞台照明の世界でも一般的でしたし今現在でもあらゆる方面で活用されている手法ですから特別珍しいものではありません

だって最終的に人間が感じる量の変化って、例えば光量や音量にしてもそうですがアナログ的な連続変化ですからそこに直接関わっている電子制御はアナログ量変化に置き換えることになるんです。
でも一般の方から見るとけっこう意外なことに感じますよね。
そして本題のアナログシンセサイザーにとっての電圧云々、これが意味するものは… このページの下の方で具体的に解説しています。


MC-8使用例の参考として下に冨田勲さんのホラ・スタッカートを貼っておきます。
この曲はmoog SYSTEM55・Modular IIIpをMC-8で動かして制作されたものです。
手弾きでは追いつかない速弾き演奏のために全てをMC-8で処理したそうです。



 〜寄り道 3 〜  アナログシーケンサーKORG SQ-10
KORG SQ-10(12〜36ステップシーケンサ)
MC-8のようなCPU・メモリーを使用するシーケンサーが登場する前の自動演奏はアナログシーケンサーを使用していました。これは各ステップをツマミで設定しておく方式のため8〜40ステップ程度の記憶しかできませんから1曲分の自動演奏用には使えません
主な用途は簡単なアルペジオの繰り返しですが、曲制作においてはそれも一般的な作業ですからアナログシーケンサーもそこそこ需要はあったんだと思います。

上の方に貼ってある写真(SYSTEM55SYSTEM700)でツマミが均等にたくさん並んでいるブロックが見えますが、、あれアナログシーケンサーです✿


 3-5  個人でも気軽に手が出せるモジュラーシンセ

何れにしてもこの当時のモジュラータイプシンセサイザーは数百万〜1000万円ととても高価な為、導入に見合う金銭的な成果が出せるとわかっていないと手を出せるものではありませんから主な購入者は冨田勲さんクラスの音楽活動家かスタジオに限られていたと思われます。

でも当然個人需要もあったため日本メーカーのKORGはそういう層へ向けた廉価なモジュラーシンセを生産販売しました。
それが MS-20 で10万円弱の価格設定で支持を得たそうです。
今現在でも中古市場では10万円前後で見つけることができます。
KORG MS20 mini
…が、KORGは同モデルの機能やカタチはそのままに新しくMIDIも加えて復刻版を出しています。(現在販売されているモデルです)
この写真のKORG MS20 miniは1970年代に販売されたMS20の復刻版で同じ姿をしていますが、ミニ鍵盤を採用し一回り小さくなっています。
その少し前にはMS-20 KIT(公式動画)も販売されました。

MS-20発売時のMSシリーズラインナップ(写真のみ) MS-10MS-50VC-10SQ-10

 4  ライブ演奏向けシンセサイザー

当たり前ですがライブで演奏中に大量のコードを抜き差し配線組み直して音を作る暇はありませんから、ライブパフォーマンスに特化したシンセサイザーも登場しました。

これはある程度の組み合わせを固定させておいてパネル上のボリューム・スイッチのみで音作りにアクセスできるようにしたものです。
そのため音作りの幅はモジュラーシンセサイザーには及びませんが、音楽演奏…つまり楽器として突飛で使えない音が出るわけではないので、むしろこちらの方が優れています。

 4-1  YAMAHA GX-1
エレクトーンのステージモデルとして製造販売されたものですが、中身は8音ポリフォニック✕35台分のどうしようもなくハイスペックなアナログシンセサイザーです。
但しカタログ価格で700万円しますしフルセットで重量400kg程度になる機材ですから個人向けではありません。
このてのエレクトーンはステージモデルと呼ばれるものなので主に会場据え置き用です。
YAMAHA GX-1

 4-2  YAMAHA CS-80
8音ポリフォニックシンセサイザーですがこれも比較的高価なため当時個人所有していた人は少なそうです。生産数がそれほど多くなかったのか中古市場も殆ど見かけません。
またライブ’演奏用のシンセサイザーとは言っても重量82kgありますから移動・セッティングは大変だった筈です。
パネル左上にある蓋の下にはシンセサイズの設定を行うメモリーバンクがあります。
YAMAHA CS-80

 4-3  Sequential Circuits Prophet5
ライブ向けのアナログシンセサイザーとしての定番モデルで、YMO全盛期に坂本龍一さんも使っていました。生産数も多く40年以上経過した現在でも30〜40万円程度で中古が入手できますからシンセサイザーが好きな方の殆どは所有していると思います。
木枠には胡桃の木を使っていますが、うちのProphet5は荏油をすり込んでいます。

Prophet5はその名前の通り5音ポリフォニックですが更にパネル上のツマミ・スイッチ位置をメモリーさせておけるのでライブでは重宝します。
シーケンシャル・サーキット Prophet5

 4-4  YAMAHA CS-40M
2音デュオフォニックシンセサイザーとしてこのモデルをあげておきます。
同時2音までなのでコードを弾くことはできませんが、実際に使ってみるとリード向けに特化した旋律演奏用シンセサイザーとして2音制限もアリだなと思えてきます。
Prophet5と同じくパネル上のツマミやスイッチ位置をメモリーさせることができ外部へのデータ保存はカセットテープを使用します。
また、背面にたくさんジャックの穴が見えますが、CV・トリガーの入出力もあります。
※MIDI誕生前はアナログ電圧をインターフェースに使っていました。
※現在うちのCM40Mは電源が入らない状態です。この故障はCM40Mの持病らしい
YAMAHA CS-40M

 4-5  moog Mini moog
おそらく世界で一番有名なシンセサイザーです。
シンセサイザー生みの親であるロバート・モーグ博士自らの設計による1970年のモデルで、現在でも中古が40万円前後で入手できます。
Prophet5と同じく現在でも所有者がたくさんいるものと思われます。
ここデジアカMac部 発案者のMoonCat元住人のりぁちゃん (Sharia Flanaganさん)も所有していますね!
とても厚い音が出せるのでリード及びベースパートの演奏に使用されます。
moog Mini moog

 4-6  moog Moog One 16voice
今年(2019年)販売開始されたばかりの新しいアナログシンセサイザーです。
アナログとは言っても制御機構のOSはLinuxなのでコンピューターに管理されたシンセと言えます。
こういう構成は操作性の向上とともにアナログ100%機器と比較して品質維持の恩恵があります。
moog Moog One



 5  音作りの基本

私達が耳にする音は音程(周波数)・音色(波形)・音量(振幅)の3つの要素からできていますから、この3大要素を自在に操作できれば理屈の上ではどんな音も再現が可能です。

アナログシンセサイザーはこれら各要素を電圧に置き換えて操作する装置だと考えればOKです。
そして各要素はそれぞれ以下の名称が付けられています。

 音程(周波数)  電圧制御発振器 (Voltage Controlled Oscillator)  VCO
 音色(波形)  電圧制御フィルター (Voltage Controlled Filter)  VCF
 音量(振幅)  電圧制御増幅器 (Voltage Controlled Amplifier)  VCA

尚、これに時間的変調を加える要素として次の2つも欠かせません。
 筒み発生器(Envelope Generator)  EG
 低周波発振器(Low Frequency Oscillator)  LFO

アナログシンセサイザーはVCOVCFVCAEGLFOの5つのモジュールが基本。

電圧制御…と付いていることからもわかりますが、アナログシンセサイザーの全てのモジュールは電圧の大小で動作しています。
そのため周囲の気温の変化に大変弱いため15分〜30分程度の暖機運転が必要です。
例えば音程を司るVCOは、電圧1Vで1オクターブ(メーカーによっては1Hz)を上下させているので僅かな電圧の変動でも聴感上 音程がズレてしまうためとてもシビアです。

 5-1  概要
先ずはこの簡略化した図で音作りのだいたいの流れを掴んでください。
役目がわかりにくそうなのはLFOだと思いますが音楽上の効果はこうなります。
VCOにLFOを流すとビブラート
VCFにLFOを流すとワウ
VCAにLFOを流すとトレモロ

また、EGの効果ですが例えばEGがVCA(音量)に与える指示はフェードイン・フェードアウトだと考えれば概ねオッケーです。
何れも下のほうで具体的に解説しています✿


 5-2  アナログ・シンセがカバーできない音作り
次項の本題に入る前に…アナログ・シンセサイザーの欠点を説明しておきます。
シンセサイザー…の、シンセサイズは合成の意味ですが、現実にはフィルターによって元の波形を削り音の加工を行う倍音減算方式なので、アナログシンセサイザーではガラスが割れるような複雑な倍音を伴う音はつくれません。

その意味では加工前の元になる音を発生させる音源…VCOに多くの倍音成分を求めてしまいますがもしここで倍音を含んだ音を発生させて次段のフィルターへ渡しても、望み通りの変化をつけることはできないばかりか発振源の音の特徴を最後まで引きずってしまいシンセサイザーとしては本末転倒となります。

下に貼り付けたサンプルはVCOを使わずに別音源をVCF以降に送って加工してみた例です。

VCOで出せない倍音のある音と言えば人の声も十分複雑な倍音構成の音ですから、参考になると思いますが、発信源の音の特徴を最後まで引きずっている様子がわかると思います。
音として変化はしてても何を喋ってるのかはわかる時点でシンセサイザーと言うよりエフェクターになってしまっています。


つまり原理的にアナログシンセサイザーでは音作りに限界があるということです。
※音の三大要素の操作が意外なほど大雑把です。
※但し複数のモジュールを使用してタイミングを徹底的に調整すれば人声も作れないことはないです。私自身ハッキリと「あいうえお」に聞こえる音は作ったことがあります。

この部分の解決は倍音構成を自在に制御できる1980年代以降のFM合成その他の方式まで待つことになります。

…とは言ってもアナログシンセでないと味が出ない音というものも実際存在していますし、何より操作性の良さというメリットがあるので生き残っているんだと思います。
結局は道具ですからそれぞれに向き不向きがあります。

※余談ですが、にゃんぱすぅ〜…の宮内れんげの声を演じた小岩井ことりさんは作詞・作曲家としても活動していて現在のシンセサイザー操作に必須な知識…つまりMIDIですが、MIDI検定1級を持っています✿




 6  音作りの流れ

以下の図は2010年のMac部GarageBand講座用に作ったものでアナログシンセの基本をイメージしながら勝手に書き描いたものですからメーカーによっては他要素を盛り込んでいたり(あるいは省いたり)また機能表記等にも差異はありますが、アナログシンセサイザーの動作理解をする上では問題ないと思います。

また、このページの上の方で登場していたモジュラータイプのシンセサイザーは、ツマミがたくさん付いていますが、同じユニットが複数並んでいるだけでその基本構成は以下の図と殆ど変わりません。
※つまり以下の図が理解できればどんなに規模の大きなモデルでも操作できます。


 6-1  全体の流れ
信号の流れ自体が多いので図が2つに別れてしまっていますので、2枚の図を同時に見てください。
難しく感じるかもしれませんがこれさえ理解できればメーカー関係なくアナログシンセサイザーの実機を前にしてもおおよその操作がわかるようになります。




 6-2  キーボードの役目
シンセサイザーの要素の中で唯一楽器らしさを見せてくれる要素がキーボードですが、アナログシンセサイザーでのキーボードは2つの信号しか出していません。
 トリガー(TRIGGER)  鍵盤を押しているかどうかのON/OFF情報
 CV  どの鍵盤を押しているかを電圧として送る

✿メーカーによってはTRIGGERをGATEと表記している場合もあります。
✿アナログシンセサイザーにおいてのキーボードはこのようにスイッチの開閉とその位置情報しか出力していませんが、これはつまりこの2つの信号を出すものは何もキーボードである必要はないわけです。

✿例えば演奏情報をパソコンで作ってトリガー・CVのアナログ電圧を出せれば…それは自動演奏が可能になるという意味で、上の方で紹介しているRoland MC-8はその用途として作られた製品です。
これをシーケンサーと呼びます。

※CVにはメーカーによって違いがあって、1オクターブ分を電圧1Vで扱うものと
オクターブを対数電圧に解釈するHz/Vの2種類が存在します。
それぞれOct/V Hz/Vと表記します。


 6-3  VCO(Voltage Controlled Oscillator)
アナログシンセサイザーにとっての音源… 「始まりの音」を作るブロックです。
設定された音階スケール&キーボードからのCVに従って周波数(音程)を送り出します。
 TUNE  チューニングです。音程の微妙な調整とか楽器としてのチューニングを行う場所です。
 SCALE  音域のセレクトを行います。例えば37鍵しか鍵盤がなくてもここでシフトさせれば88鍵の音域をカバーすることもできます。
 WAVE  おおもとになる波形をここで選択します。図では鋸歯状波・短形波の選択ができるようになっています。

 PW  Pals Wiseの略ですが、短形波の形をここのツマミで調整します。
 EG  EGからの時間変化の信号をどの程度VCO(音程)に影響させるかをここで調整します。琴の音を作る場合とかに便利です。
 LFO  LFOでVCOに変調を…と言うと難しそうですが、ビブラートのような効果をここで与えます。ライブ演奏用のシンセサイザーではキーボードの脇のホイールに割り当てられていることが多いです。
ここの図で書き忘れましたが、ポルタメントという機能もあります。
どういう効果なのかはこの音を聞けばわかると思います。




 6-4  VCF(Voltage Controlled Filter)
VCOから送られてきた音の波形を削ったり一部を強調するブロックです。
ここで音色を整えます。
 CUTOFF FREQUENCY  カットオフフリケンシーと言います。VCOから送られてきた波形成分の倍音をカットすると音色変化をもたらしますが、このツマミはそのカットする周波数を変化させます。
このサンプルでは下に説明しているレゾナンスを強めに設定しています。
 RESONANCE  レゾナンスはカットオフとセットで使用しますが、VCFと言えばこの2つがメインの調整箇所です。
カットオフで削った箇所の周波数成分を増幅量を調整するためのもので、音色に艶または癖を与えます。
 EG  EGから送られてきた時間変化でCUTOFFを変化させます。
時間変化で温色が変化する…楽器の殆どは実は時間変化で音色が微妙に変化していますからこの機能は意外とよく使います。
 LFO  LEOの周期に合わせてCUTOFFを変化させます。
電子楽器の音楽の世界ではこの効果をワウと表現します。
尚、図には書かなかったのですがごく一部の機種はVCFにHPF・BPF・LPFを切り替えるスイッチが付いていることがあります。
それぞれハイパスフィルター・バンドパスフィルター・ローパスフィルターですが、たいていの場合、LPF(Low Pass Filter)固定で問題ありません。
(この機能が省略されているモデルはLPFのみ搭載です)
LPFの場合、Lowをパス…つまり高い周波数成分から倍音を削っていきます。
聴感上では、BPF…更にHPFにしていくと中抜け感のある痩せた感じの音になります。



 6-5  VCA(Voltage Controlled Amplifier)
音量(振幅)を司るブロックですが、オーディオにおいてのアンプと異なるのは頻繁にその音量をコントロールしているということです。
 INITIAL LEVEL  EGに関係なく(つまり鍵盤が押されたかどうか関係なく)常にここで設定された音量を継続的に鳴らし続けます。
簡単に言うとオーディオのボリュームと同じですw
 LFO  VCAに対してLFOからの変調を与えると、結果的にそれはトレモロとして聞こえることになります。
 GAIN LEVEL  単にVolumeと書いてることもありますが、これはEGによる変化をどの程度受け付けるか?を設定する部分です。
0にしてEGからの信号を受け付けないようにすると音が鳴りません。
※もちろんINITIAL LEVELはEGとは関係ありませんから、INITIAL LEVELをあげていれば音は鳴り続けます。


 6-6  EG(Envelope Generator)
キーボードからのトリガー(ON/OFF情報)を起点に時間変化の情報を送り出すブロック…と言ってもわかりにくいかもしれないので2つ目の図も見てください。

楽器の・楽器らしさ…を作るその時間的変化を司る部分ですが「立ち上がり時間」「減衰時間」「保持レベル」「余韻時間」の4つが全てです。

わかりやすいようにVCA(音量)に適用した場合のシーンで説明します。
鍵盤を思い浮かべて… どこか鍵盤を叩きます。
すると音が出ますが、その音が最大音量になるまで瞬間かもしれませんが、僅かに時間がかかるかもしれません。
その立ち上がり時間…
これが Attack Time です。
鍵盤はまだ押したままです。
ピアノでは音が消えていきますが、音量0に近づいていく時間を決めるのが
 Decay Time です。
鍵盤はまだ押したままです。
オルガンだったら鳴りっぱなしですよね。
その時に持続している音量はどうでしょうか?
その保持音量を決めるのが Sustain Level です。
さて、鍵盤を押していた指を離しました。
でも音が消える若干時間がかかるかもしれません。
ここでまたピアノを思い浮かべて下さい。鍵盤から指を離しても音が完全に消えるまで余韻がありますよね。
この余韻時間を決定するのが Release Time です。

EGの情報をVCOに渡した場合は「音程の時間変化」、VCFに渡した場合は「音色の時間変化」、そしてVCAに渡した場合には「音量の時間変化」となります。


 6-7  NOISE(NOISE Generator)
ノイズ…雑音とも言いますけれど音作りでは重要です。例えば汽車の音や風の音を思い浮かべてください。これらはVCOが発振する音階とか関係なさそうですよね。
ひとくちにノイズと言っても波の音を作る場合と風の音を作る場合では元になるノイズ成分自体から違います。波の音ってザーって感じがしますしね。
 …と言うわけでホワイトノイズ・ピンクノイズの2つが存在します。
サーザーの違いです。

このサンプルは無加工のホワイトノイズにVCA-LFO(周期的な音量変化)だけをかけた状態です。たったそれだけでも安易に汽車っぽい音になります。

これだけだと味気ないので汽車という区切りでPacific231を貼っておきます。これも冨田勲さんがSYSTEM55その他アナログシンセサイザーを駆使して作った作品です。




 6-8  LFO(Low Frequency Oscillator)
日本語で言うと低周波発振器です。発振器とは言ってもLFO単体が音を提供するのではなく、VCO・VCF・VCAその他へ影響(変調)を与えるものです。
 WAVE  変調の波形を決めます。
波形にはサイン波・三角波をよく使いますが、S/H(サンプル&ホールド)もあります。
 FREQUENCY  変調の周波数を調整します。
サンプル
サイン波・三角波をVCOに充てた時の音です。

次はS/HをVCOに充てた場合の音サンプル


 6-9  RING Modulator
アナログシンセの要素には他にリングモジュレーターというものもあります。
現在ではエフェクターとしても使われていますが、 これは原理的には周波数の異なる2つの入力からその和と差の周波数を出力するもので例えば鐘の音など金属的な音を作る際に使用されます。

下のサンプルを聞くとわかりますが、金属音に変えてしまう効果が得られます。
アナログシンセサイザーの中でのリングモジュレーターは音作りの過程で使用するものですが、このサンプルは効果がわかりやすいように曲そのものの最終段階でON/OFFかけています。




 7  最後に
部活時間の2時間枠で消化できる程度に端折った内容にしていますが、アナログシンセサイザーに限って言えば今回取り上げた基本部分がわかってさえいればツマミが数百個並んでいる大規模モデルを目の前にしても、あるいは取扱説明書すら作られていないマニア製作一品モノのオリジナルシンセであっても大丈夫です。
私自身過去に知り合いが製作したオリジナルシンセを直接見たことがありますが、それは横幅2.5m・高さ2mの壁でした。
数える気も起こらなくなるツマミの量にもちろん圧倒はされましたけれど、眺めただけで使い方は普通に判ったのでそういうものなんだと思います✿



現在はPC・スマホ/タブレット上で動くソフトシンセがありますしハードウェアとしてのシンセサイザーは(まして音楽活動をしていない個人にとっては)必ずしも必要ではありませんが音作り専用のモノが手元にあるのはなかなか便利に感じることも多く楽しみ要素でもあるので、日本メーカー…YAMAHA・Roland・KORGの3社からそれぞれ初心者にも扱いやすい5万円前後の実用的なアナログシンセサイザー(現在発売されているもの)を紹介しておきます。
※最後に触れていますがソフトシンセは気軽さの面では敷居が高いです。  

以下、実用的というか普通にレコーディングに使える製品ですけれどSL自作アイテムに入れる効果音作りにも向いていそうです✿
リンク先は全部YouTubeの動画です。
YAMAHA Reface CS
Roland SYSTEM-1
KORG monologue
もしも鍵盤は必要ない…と思うのなら、 KORGのvolca modularという選択もあります。

どういうものかは動画を見るのが早いですがアナログシンセシスの学習を意図されてる製品です。ちょっとした環境音楽作りもすぐできますしこれはハマると思います✿
アナログシンセ・エフェクト・シーケンサーが入ってます(1台で完結しています)


※出費を抑えてアナログシンセサイザーを導入するということなら、PC上で動くソフトシンセ以外にiPhone・iPadアプリの iMono/PolyiPolysixiMS-20…更にこのページの上の方で紹介しているKORG PS-3300もPCソフト音源化されているのでこういうモノを使用するのも問題ありませんし今では現実的なチョイスですけれど、これらは色々把握している人向けみたいな側面があるので解りづらくインストールしたまま放置状態になってしまうかもしれません。
ですから、ここで紹介したようないつでも触れることができるハードウェアのシンセを身近に一つ持っていた方がすぐ覚えられます。




尚、このサイトのコンテンツは全て公開設定になっていますが、内輪向け(仮想世界Second Life内でのデジアカMac部の部活用)にまとめたものですから部員の方以外の外部リンクやコメントはご遠慮ください。
また、シンセの説明で使用している図もオリジナルのものなので無断使用はおやめください。

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