2022年5月11日水曜日

車窓と駅弁

今回は「駅弁」を取り上げます。
駅弁は説明するまでもなく、駅や列車内で販売される弁当のことで厳密に言えば食堂車・ビュッフェと並ぶ鉄道においての供食サービスのひとつです。

鉄道の供食サービスは乗車時間が長かった頃に必要とされたものですから速達性を遂げた・あるいは系統分離によって列車運行距離が短くなっている現在に残っている供食サービスは当時の名残り… あるいは(食堂車などは特にそうですが)特別感をもたせるための存在です。
何れにしても駅弁は鉄道のグループ企業や地域の食品会社が提供しています。

尚、このテキストではいくつかの駅弁が出てきますが あくまでサンプルで出しているだけで全国隅々の駅弁を紹介していくものではありません。
あくまで雑学としての「駅弁スタイル」を簡単にまとめたものです。


 1  駅弁について  

繰り返しますが「駅弁」は食堂車ビュッフェに並ぶ鉄道においての供食サービスと言えるもので、駅構内やプラットホーム上の駅弁販売店・列車内・立ち売りにより提供されます。

一部に再加熱の仕掛けを持たせた駅弁も存在しますが、キホンは冷めた状態で食することが殆どですから、その前例で調製されています。
また、列車で移動中(物理移動中)の人の味覚の変化まで計算されているケースもあるので家に持ち帰ってレンチンなどは味の計算が狂ってしまうので論外と言われています。
※家でレンチンして静止状態で食べると全体的にしょっぱく(塩辛く)感じると思います。

 1-1  137年の歴史 
駅弁の始まりは1885年(明治18年)。白木屋が宇都宮駅で提供した[ 竹の皮に包まれた握り飯2個・たくあん2切れ ]が最初だと言われています。
販売価格もやや高めで天丼4銭の時代にこの握り飯の弁当は5銭だったそうです。

その時代から今に至る駅弁文化ですが現実には衰退の一途だと言えます。
JR時刻表からは駅弁取扱いがある駅を表す[弁マーク]が消え、専門に駅弁を調製する会社も少なくなってきています。
列車の速達性向上や系統分離など乗車時間短縮による車内飲食の減少・あるいは流通コントロールがしやすいコンビニ弁当に置き換わっている状態です。

 1-2  立ち売り 

駅弁の立ち売り ©まねき食品

駅弁販売のスタイルで一番「絵」になるのはホームでの立ち売りで、停車中の列車の窓越しで(出発までの僅かな時間内で慌ただしく)駅弁を販売する姿は旅情掻き立てるものがあります。
最近の冷暖完備の列車は窓が開けられないことが多いですが、以前は乗客自ら開閉できる窓が普通だったため、上に貼った写真のような窓越し販売が成立していました。

そんな立ち売りも今では殆ど見かけなくなりましたが、2022年現在でもいすみ鉄道-国吉駅・えちごトキめき鉄道-直江津駅・JR木次線-亀嵩駅・JR鹿児島本線-折尾駅など四箇所に残されているようです。
私自身は10年ほど前に東武日光線の下今市駅で目撃していますが、特急などの優等列車以外にロングシートの各駅停車(通勤型電車)内にも弁当持込みで歩き回っていたのが印象に残っています。



 2  駅弁文化は残るのか?  
先ず駅弁文化というというものが何を指すのか…それを正確に解説している記事が見つからなかったので(それくらい廃れてしまっているようなので)ここであらためて取り上げておきます。
公式によるものではありませんが、この内容はかつて存在した数千人規模ある駅弁コミュニティ内の投票で多くの賛同を得ていた上位意見をもとにしています。

 2-1  駅弁は観光資源の一形態です。 
駅弁で一番重要な要素は地域でとれた食材を使ってその土地ならではの「弁当」をつくること。
要は地産地消的なものとも言えますが移動中の食としてコンパクトにアレンジした郷土料理であり地域をアピールする観光資源とも呼べるものです。

  • 地域の食材を使う
  • 移動中の食を想定・パッケージ化したミニ郷土料理

  = 観光資源

とある駅弁を食べるために移動経路考えて旅行計画を立てる云々・・・・その地で駅弁を買って乗り込んだ列車内で食べること自体が旅行の目的になっている。
YouTubeやその他の商業ベース媒体でも「駅弁食べ歩き」をテーマとした映像コンテンツが散見されますが、男女年齢問わず駅弁目的で旅行をする人々もまだそれなりに残っていると思われます。


 2-2  駅弁の食べ方 
作法云々とか堅苦しい話ではなく…ものすごく簡単なことです。
鉄道での移動と言えばともかく「車窓」です。窓に流れる風景を見ながら箸を進めればOK

海が目に入ったら「この魚はあのへんで漁獲されたものだろうか?」
山が目に入ったら「この山菜はあのあたりで採れたものかな?」
田園風景が目に入ったら「このお米や野菜はあそこで収穫されたものかな?」
畜産・酪農風景が目に入ったら「このお肉はあそこで?乳製品の元はあそこで?」

駅弁を買った駅を列車が出発… 地域により範囲が大きく異なりますがおおよそ半径50km(在来線の列車で40〜60分)圏内が、その駅弁を構成する食材がとれた場所!

動画尺:28秒

下で説明しますが、流通網の発達により駅弁の構成によっては多少地産のものが混じっていても他地域から取り寄せている具材の方が多いケースは普通にあります。ですからここは強引に地産だと思い込むことが大切です。

…全て何の根拠もない勝手な思い込みで成立させますが、それが駅弁をより美味しくしていきます。


 2-3  懸念されること 
流通網の発達は私達の生活に多くの恩恵を与えてくれましたけれど、食材調達可能エリアが極端に広くなったことで食材の地域性が見えにくくなってしまいました。

そして、調製された駅弁も販拡のために売られる場所が増えてご当地モノという存在価値が弱くなってしまった気がします。
東京・大阪の主要駅には遠く離れた地の駅弁を一挙提供するお店がありますしね。

ですからちゃんと意識していないとその駅・地域と全く関係のない駅弁を買ってしまうことが普通に起きてしまいます。
まぁ、食べたいものを食べる…その意味ではここでの選択に正解も不正解も存在しませんが駅弁が空腹を満たすためだけのものになってしまうのはやはり残念ですしもったいないと思います。

・・・ これはつまりコンビニ弁当と同列に立つことにもなるんですよね。

 そうなると消費者としては割高な駅弁に手を出す必然性がなくなるから、もう駅にコンビニ設置でいいんじゃ?みたいな・・・

この現象は今現実に起きていますから、近い将来駅弁は淘汰されてコンビニ弁当に置き換わてしまうのかもしれません。

この関係を簡単に図にまとめておきました✿


地域性も何もない空腹を満たすためだけのコンビニ弁当を皆が望んだわけではないでしょうけれど、お客さん側の利便性そして提供側(鉄道事業者)としては効率を求めた結果 & リスク回避を突き詰めた結果の着地点がコンビニ弁当なんだと思います。

今の駅弁が完全に消えることはないんでしょうけれど、売れ残りさせないため・つくり置きをなくすために事前予約制になっている駅弁も出てきていますからどんどん気軽さがなくなっていきそうです。




 3  人気の駅弁  
人気であることは間違いないですが、ここで紹介するサンプルはあくまで個人的に気に入っていて何度もリピート購入したことのある駅弁です。ですから統計順位などを示すものではありません。
※主な販売駅をあげていますがその地域にある他の旅客扱いの多い駅でも入手できます。


【チキン弁当】
初めて自分で買った駅弁なので思い入れもありますが、東北方面への夜行があった頃、上野駅から乗車する際は必ず買っていた駅弁です。
wikiを見ると1964年〜と、歴史の長い駅弁ですが左の写真は復刻版パッケージです。
内容はチキンライスと鶏唐でシンプル!どのへんが東京地産なのかはわかりませんが東京・上野駅の駅弁と言えばその筆頭に出てくる一番有名な駅弁だと思います。
主な販売駅:東京駅・上野駅


【深川めし】
これもお気に入りの駅弁で、東京駅から夜行列車に乗る時に必ず買います。なんとなく江戸前&粋と感じてしまいます。
この駅弁はハゼの甘露煮が入っているのが昔ながらなスタイルですが、これを入れてないNRE版深川めしも存在します。
主な販売駅:東京駅


【いかめし】
烏賊飯そのものは昭和16年に誕生した北海道渡島地方の郷土料理なので当然家庭でも作られてきた料理ですが、この料理の認知拡大に貢献したのは間違いなく同じ年に誕生した森駅の駅弁「いかめし」だと思います。
それくらい有名な駅弁ですね。
「いかめし」はかなり小ぶりに感じるのですが、うるち米、もち米がぎゅうぎゅうに詰まっているので見かけ以上に腹持ちの良い駅弁です。
主な販売駅:森駅


【天むす】
天むすと言えば名古屋発祥の料理というイメージが定着していると思いますが、厳密には三重県津市で誕生した料理です。
見たとおり複雑な料理ではありませんが、天むすには必ずきゃらぶきが添えられています。何故きゃらぶきが必要なのかは食べてみるとわかると思います。
主な販売駅:名古屋駅



【ますのすし】
これも全国的に有名な駅弁ですし今ではどこでも手に入るものなので食べたことのある方は多いと思いますが駅弁としては一段と二段が存在します。
ギュウギュウ詰めなので一段でもじゅうぶんお腹いっぱいになります✿
主な販売駅:富山駅



【ひっぱりだこ飯】
平成10年の明石海峡大橋開通を記念して生まれた駅弁です。
誕生からずっと「明石だこ」が使われてきましたが2021年夏の不漁を受け、10月からやむなく、当分のあいだ別地域の国産だこを使用するようになりました。
陶器製の器を捨てずに食器棚にしまっている人が多そうですが(私も持っています)販売総数で計算すると国民の10人に1人が「ひっぱりだこ飯」を食べたことになります。
主な販売駅:明石駅



極撰 炭火焼き牛たん弁当
仙台と言えば牛タンが有名ですから牛タン駅弁がウリなのは当然だと思います。
…が、材料の牛タンは外国産なんだそうです。国産を使うと4000〜5000円台になってしまうからだそうですが、コスト的に駅弁原則通りにできない(地産にできない)例ですね。
主な販売駅:仙台駅



牛肉どまん中
1992年山形新幹線開業にあわせて生まれた米沢駅の駅弁です。
とてもわかりやすい名称ですが、これは庄内平野の真ん中で生産される「どまんなか」と名称のお米を使っているからです。
このお米は冷めた時に牛肉煮のタレが絡みやすいそうです。
主な販売駅:米沢駅・東京駅


氏家かきめし
根室本線厚岸駅前の氏家待合所というお店で作っている”かきめし”弁当で、1960年頃に誕生した駅弁だそうです。
この氏家のかきめしは全国的に有名な駅弁です✿

主な販売駅:厚岸駅前店舗(予約注文)
東京駅構内の駅弁屋 祭ならいつでも購入可能です。

※この氏家かきめしに限らず東京駅で大量に販売される地方駅弁はだいたいの場合JR東日本クロスステーションなどが都内で調製しています。

ストリートビューで氏家待合所を見てわかりますが、とても小さい飲食店さんです。




 4  コンビニ弁当に近い駅弁 
上のサンプルにあげた駅弁は個人的に気に入っているものですし、有名な駅弁でもあるわけですが、どこ産の食材? 調製してる拠点はどこ? という部分で駅弁定義通りではないものもいくつかありました。

と、いうより食材調達において少しでも安く確保できるなら企業としてはそうしますしね。
これは流通網の発達がバックアップしてくれるので求めている食材が安くすぐ手に入ることになります。

一方、東京駅構内など利用者数の大きい巨大駅で扱えば数が出る…ということでそこで販売拡大を求めていこうとすると、今度は調製数量や輸送コストなどの問題がありますから調製は都内の業者に。そして監修のみを…という流れになるようです。

何れにしても地域の食材を使用し地域で調製・その地域をアピールする観光資源であるという本来の「駅弁」定義が崩れてしまっていることが確認できます。

名称のみで地方風味を…

コンビニ弁当との違いがほぼなくなってきたように感じます。

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